かたき撃ちをしてもらったマックス・・・
Max vengé

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編集部から、フランスの「ル・モンド」という新聞にあったマックス君の悲劇をご紹介します。
猫マックスへの愛情のために、アンドレはジャンを撃った

 こう題された記事は、こんな風に始まっていました。

結局、誰がマックスを殺したのかは分からない。分かっているのは、アンドレ・ブリケがジャン・ベリーに発砲したことである。彼がマックスを撃ったと思い込んでいたからだ。アンドレ・ブリケとはジャン・ベリーの隣人である。前者は猫を熱烈に愛しており、後者は庭を熱烈に愛していた。マックスとは猫である。彼はといえば、アンドレの家と、ジャンの庭の両方を愛していた。

 裁判を受けたマックスさんは、今から十数年前、優雅な老後を過ごすために新興住宅地に家を建てて住り住みました。そこに悲劇が待っていたとは・・・。



 お隣同士だったガーデニングが趣味の家族と、ネコが好きな家族とは、初めのうちは仲が良かったのです。

 でも、そのうち、何となくしっくり行かなくなってきました。

 バカンスで長いこと留守のときに郵便物を郵便箱からとってあげたのに、帰ってきたときにお礼を言わなかったので怒った・・・とか、そんなたわいもないことがきっかけでした。

 お隣さんは、アンドレさんのネコのこと、特にマックスのことで文句を言うようになりました。

 裁判の証言台に立った73歳のアンドレさんは、彼の白髪と同じくらい白い顔で、あの時のことをはっきり覚えていると語りました。

 3年前の2月のある夜。マックス君はお隣に遊びに行きました。

 ところが彼はすぐに、「稲妻のように」帰って来てしまいました。アンドレさんはマックス君が異常なことに気がつきます。

 いつものマックス君なら、外出して帰ったときにはパパ(アンドレさんのこと)に会いに来ます。ところが、このときは、そそくさと2階にあがってしまったのです。

 マックス君を撫でようとすると、「ウーッ!」とうなり声をあげて、ベッドの下に隠れてしまいました。

 マックス君はすぐに動物病院に連れて行かれました。内臓に鉛があるのが分かって、ただちに手術。でも、さんざん苦しんだあげく・・・、死んでしまいます・・・。

 その10カ月後、アンドレさんは隣家に行き、マックス君を殺したと信じている犯人に銃砲を向けて4発撃ちました。2発は背中に、1発は胸部を貫通・・・。

 お隣の家に行ったとき、どんな風に時間が過ぎたのかを、アンドレさんはほとんど覚えていません。



 マックス君がアンドレさんの家にやって来たときには、やせ細っていて、ニャーと声を出すこともできないほど元気がなかったそうです。

 「アンドレはマックス君の魔法にとりつかれてしまったように見えた」、と奥さんは証言しています。

 アンドレさんはマックス君を息子として扱いました。マックスという名前も、アンドレさんのミドルネームからとったのです。

 地下室をネコの遊び場に改造し、冬には寒くないように暖房も入れました。

 さらに、マックス君は遊び相手が欲しいのではないかと思い、SPA(動物保護協会)からネコをもらってきて兄弟をつくってあげたりするくらいの熱の入れよう!



 マックス君が亡くなってから、アンドレさんの生活はめちゃめちゃになりました。

 夜は眠れないし、食事も喉に通らない。マックス君のお腹から摘出された鉛のかたまりをチェーンにつけて、そのネックレスを肌身離しませんでした。

 マックス君を殺したのは隣のご主人だと信じました。そして、「正義で裁かれるべきだ」と繰り返して言うようになりました。

 それを訴える手紙を、裁判長、それから150を超える動物愛護組織にも出しました。大統領にも手紙を送っています。

 アンドレさんは「猫マックス日記」というものをつけていて、そこに書きました。
「動物に対する愛情は、愚かなヤツの一生より千倍の価値がある」

 「ただのペットだったのだから・・・」などと言ってなだめられると、アンドレさんは激怒。

 奥さんや二人の娘さんはアンドレさんの異常を心配しました。村長さんに話しに来てくれるように頼んだりしています。警察署にも相談しますが、「そんなことにいちいち構っていられない、医者に話すべきことだ」と冷たくあしらわれてしまったようです。

 そして今から2年前の12月。マックス君の死から社交生活を拒んでいたアンドレさんは、久しぶりに役場で開かれた老人会のパーティに出席することを承諾しました。食事の後には奥さんをダンスに誘ったりまでします。

 奥さんも、近所の人たちも、アンドレさんが今までの生活が戻ったと喜んだのではないでしょうか? しかし、アンドレさんが猟銃を持ち出してたのは、その翌日でした。

 アンドレさんは懲役12年の刑を受けました。

 牢獄に入ったアンドレさんは、刑務所にホームレスのネコたちがたくさんいることに気がつきます。そして彼の担当判事に手紙を出したそうです。
「ネコたちのために、本当に何かしてあげるべきだ」

 ここでル・モンド紙の記事は終わっています。
誰がマックスを殺したのか?・・・

 この話しを聞いて、思い出した人があります。

 このサイトに登場したトルナド君のおばさん。トルナド君の家族がヴァカンスに出かけるときに食事係りをやってくれる近所のマダムです。

 トルナド君の近況報告のページでは詳しく書かなかったのですが、彼の家族が留守のときに食事の世話をしてくれるおばさんにはトルナド君にそっくりな黒ネコがいました。おばさんは、隣の人に毒薬をもられて殺されたのだ、と信じています。ネコが大嫌いなおじさんなのだそうです。

 「思い過ごしでは・・・」とボクは言いました。でもマダムは、「毒殺されたのだ」とゆずりませんでした。

 「またネコと暮らしたいけれど、また殺されるから可愛そうで迎えられないのよ・・・」と、ボクがインタビューしたときに繰り返し言っていました。とっても寂しそうでした・・・。

 とってもネコを愛してくれる人も多いけれど、その反動か、ネコを憎む人も多いと感じています。

 マックス君を殺したのが誰だったのかについての裁判はなかったらしいです。世の中、間違っているよ〜!・・・
編集長 メフィスト記
2006年3月
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