フランス語になった日本語
Lexique japonais en France


 フランスで耳にする日本語のリスト

1. フランスで日本語が気になった理由 | 2. フランスで耳にする日本語のリスト


最近はフランスでよく日本語が語源だと思われる言葉を聞くようになったので、いつ頃にフランスに入った言葉なのかに興味を持ちました。それをリストにしてみます。

まず、仏仏辞典に入っていた日本語をピックアップし、フランスに入った年代順に並べてみました。その次に、私がフランスの日常生活でよく耳にする日本語を追加してあります。

辞書にあっても、ほとんど知る人がいないと思われる単語は除きました。かなりの多くの人に知られていると思われるものは太字で目立つようにしてあります。

いづれにしても、日本語を語源とする言葉をフランス人たちが知っているか否かは、日本文化にどのくらい感心があるかによって違うのは明らかです。例えば、日本の文化に興味を持っている人、日本伝統の武道をたしなむ人や、日本の漫画やアニメのファン、和食が好きでよく日本料理のレストランなどに行く人たちは、当然ながら色々な言葉を知っているので驚くほどです。

辞書に入った日本語は正式にフランス語として認められたということになるでしょう。

1) 仏仏辞典に掲載されていた単語
日本語 フランス語 年号
注1
出来事
obi 女性名詞 1551年 1549年: 日本にキリスト教伝来

1585年: バチカンで、九州の3人の大名の使節とフランス王アンリ3世の使節が会見
1637年(?): フランスからやってきた牧師が琉球上陸後し、長崎に来る(キリシタン禁令により処刑)







1844年: フランス海軍の探検隊が沖縄に到着。パリ宣教師会のフォルカード神父は2年ほど那覇に滞在。日本における最初の法王代理となったが、1846年に日本を離れる。

1853年: 黒船来航
パリ宣教師会は琉球に3人の神父を派遣 ⇒『仏英和辞典』編纂
坊主 bonze (ボンズ) 男性名詞 1570年
saké  [注2] 男性名詞 1667年
日本 Japon 男性名詞 1730年
日本 Nippon 男性名詞 1765年
神道 shintô / shintoïsme 男性名詞 1765年
天皇 mikado  [注3] 男性名詞 1827年
kami 男性名詞 1845年
日本趣味 japonaiserie / japonerie 女性名詞 1850年
侍、武士 samouraï 男性名詞 1852年
大名 daïmio 男性名詞 1863年 1858年: 日仏修好通商条約調印

1865年: 横浜に「フランス語研修所」開設
この時期、幕府はフランス式海軍の創設を意図し、15人のフランス人技術者を招いて造船所を造る。日本からフランスに留学生が派遣される(5年間で約400人)

1867年: パリ万国博覧会に日本参加

1868年: 明治維新

1878年: パリ万国博覧会に日本政府が出展し、ジャポニズムを更に広める




「ラ・ムスメ」と題されたゴッホの作品(1888年)





1904年: ロッシーニ『蝶々夫人』初演
1907年: 日仏協約
1911年: 日仏通商航海条約
1912年: 画家の藤田嗣治が渡仏
腹切り harakiri / hara-kiri(アラキリ) 男性名詞 1863年
yen 男性名詞 1871年
将軍 shogun 男性名詞 1872年
男性名詞 1874年
ジャポニスム japonisme 男性名詞 1876年
掛け物 kakémono 男性名詞 1878年
sen 男性名詞 1878年
kaki 男性名詞 1882年
和紙 japon 男性名詞 1884年
芸者 geisha 女性名詞 1887年
mousmé / mousmée 女性名詞 1887年
zen [注4] 男性名詞
形容詞
1889年
鳥居 torii 男性名詞 1893年
go 男性名詞 1893年
歌舞伎 kabuki 男性名詞 1895年
琵琶 biwa 男性名詞 1895年
柔道着、着物 Kimono 男性名詞 1895年
tatami [注5] 男性名詞 1904年
柔術 jiu-jitsu 男性名詞 1906年
津波 tsunami 男性名詞 1915年 1914-18年: 第一次世界大戦





1939-45年: 第二次世界大戦
布団 futon 男性名詞 1917年
俳句 haïku 男性名詞 1922年
柔道 judo 男性名詞 1931年
dan 男性名詞 1944年
柔道家 judoka 男性名詞 1944年頃
自爆テロリスト (神風) kamikaze(カミカーズ) 男性名詞 1950年頃
空手 karaté 男性名詞 1956年


1964年: 東京オリンピック



1970年: 大阪万国博覧会
合気道 aïkido 男性名詞 1961年
空手家 karatéka 男性名詞 1966年
活け花 ikebana 男性名詞 1969年
刺身 sashimi 男性名詞 1970年
天ぷら tempura 男性名詞 1970年
剣道 kendo 男性名詞 1970年頃
焼き鳥 yakitori 男性名詞 1970年頃
折り紙 origami [注6] 男性名詞 1972年
河豚(ふぐ) fugu(フュギュ) 男性名詞 1973年
盆栽 bonsaï(ボンザイ) 男性名詞 1975年頃 1974-2007年: 親日家シラク大統領在位






1985年: 筑波万国博覧会




1997年: 「フランスにおける日本年」開始

2008年: 日仏交流150年のイベント
味噌 miso 男性名詞 1977年
寿司 sushi 男性名詞 1979年
相撲力士 sumo(シュモー) 男性名詞 1981年
すり身 surimi 男性名詞 1985年頃
豆腐 tofu(トーフュ) 男性名詞 1985年頃
やくざ yakusa / yakuza(ヤキュザ) 男性名詞 1985年頃
カラオケ karaoké 男性名詞 1985年
巻きずし maki 男性名詞 1998年


2) その他、フランスでよく使われている日本語:
日本語 フランス語
漫画 manga 男性名詞 日本独特の漫画は1990年にフランスに登場し、その数年後に飛躍的に普及したようである。 従来からフランスにある漫画はbande dessinéeには単語が使われる。漫画ファンであればmangaka(s)も使うであろう。
万歳 Bansai / Bansaï /
Banzai / Banzaï
kamikaseのように戦争を想起させるものではないように思う。テレビの人気番組 Grolandの進行役が必ず「Salut, et Banzai ! (じゃあね、万歳!)」と言って番組を終了させるのも(2010年現在)この言葉を広めたかも知れない。
さようなら Sayonara

アメリカ映画『サヨナラ』(1957年)があるが、そのために知られる言葉となったのかは不明



3) 知る人が限られるが、よく見かける単語:
日本語 フランス語
錦鯉 koi / koï 男性名詞 観賞魚を売る店で鯉の品種名として使っている。食用にする鯉はフランス語のままcarpeと呼ばれる。
ワカメ wakame / wakamé 男性名詞 最近の日本食ブームの影響のほか、フランス北部で海藻の利用を広く勧めるようになったに広まったとも思われる。
椎茸 shitaké / shitake / shiitaké 男性名詞 生産量は少ないがフランスでも椎茸は栽培されている。生産者はシイタケとして販売しているが、注釈としてlentin des chênesなどを付けている

注1(年号): フランスの文献に語句が使われた記録がある年号。
注2 (酒): 当初はsaquéと綴られたが、1863年にsaké という綴りが現れる。
中華料理屋で出すアルコール度の強い酒も「saké」と呼ばれている。
注3 (天皇): Mikadoという単語に関しては、現代では、ミカドゲーム(細い棒を積み上げ、他を動かさずに1本ずつ抜き取るゲーム))、グリコのポッキーがMikadoの名で販売されているために知られている。
『ミカド(The Mikado)』と題されたオペレッタがあったが、ロンドンで初演されたのは1885年で、フランスの文献で初めて使われた(1827年)のよりずっと後である【Wikipedia: ミカド (オペレッタ)】。
注4 (禅): 最近では禅のイメージを拡大して、穏やか、冷静、クール、リラックスなどの意味を持つ形容詞として用いられている。
注5 (畳): フランス人は武道の道場の床に敷かれた畳をイメージする。
注6(折り紙): 日本の折り紙であるときに特定する用語。折り紙は pliage de papier。


参考文献: Dictionnaire historique de la langue française (1995)、Le Grand Robert(2005)、Le petit Robert(2008)
ロベール仏和大辞典(1998)
隠された日仏外交史(抜粋)Wikipedia 日仏関係(2010年10月現在)



時代の流れの中で伝わった日本語

上の表に入れた年号は、その言葉がフランスの書物の中に現れた年を指しています。従って、人々が使いだしたのはそれより以前と考えるべきでしょうが、どのくらい前なのかは分かりません。

それでも年代順に眺めていると、時代の流れを感じます。

日本語がフランスで使われるようになったのは、やはりフランシスコ・ザビエルが日本に布教しに来たあたりからです。彼は詳しい報告をポルトガルに送っていたそうなので、フランスにも日本のことが伝わったのでしょう。

1867年(慶応3年)にパリで万博が開催されたのですが、そのとき出展した日本はかなり注目を集めたようです。幕府のほか、薩摩藩、佐賀藩が参加して、日本の産物や藩の特産品、工芸品、錦絵、出版物などを展示したそうです。

この当時には、後に印象派を形成する画家たちを中心に、日本美術に対する感心が高まっていました。明治維新から10年を経ると、「ジャポニズム(日本趣味)」なる言葉もできました。

「ムスメ」という言葉を知っているフランス人はごく少ないのですが、ゴッホが「La musumé(娘さん)」などと題した絵まで残しているので表から削除しないでおきました。

そして世界大戦。「カミカーズ(自爆テロリスト)」はやはり戦争のときの神風特攻隊からフランスに伝わった言葉のようです。

21世紀に入るころから、フランスでは大変な日本食ブームになったので、日本独特の食品がフランスに入ってくるようになりました。日本語のままの名前が目につきます。ワカメ、シタケ、ミズナ、ミツバなど、無理にフランス語にすることはないようです!



幼児語のようになる日本語の発音

「シュリミ」という言葉を聞いて、それが日本語で魚の「スリ身」のことだとは思いませんでした。surimiと書くと、フランス人は「シュリミ」と発音するのです。

なぜかスリ身はフランスの食材の中で場所を占めたようです。カニ足の偽者のようなもので、カニの味はしないし、全くおいしくはありません。

日本から輸出されているというよりは、こちらで製造されているように思います。イタリアを旅行したときにも、偽のカニ足がスパゲッティーに入っていたのでがっかりしてしまいました。こういう食品は日本の味だ、などとは言わないで欲しいと思ってしまいます・・・。

気づいてみると日本語にはUの文字が多く、フランス人が発音すると、舌が回らない子どもの言葉のようになってしまう単語がかなりあります。例えば、豆腐は「トーフュ」、フグは「フュギュ」という具合。テレビのニュースで、三菱を「ミチュビチ」とアナウンサーが発音するのを聞くと、笑ってしまいたくなります。

完全にフランス語になっている「侍」はsamouraïという綴りになっています。こう書けば、語尾は「アイ」と発音されるし、「サミュレ」ではなく「サムライ」と発音できるからです。「武士」という言い方は普通では聞こえてきません。

Hもフランス人は発音できないので、言葉が可笑しくなります。彼らは「ハ」と発音できないそうで、無理に発音しようとすると、力を入れて苦しそうな顔になります。それでも、笑うときには「ハッハッハ!」と言うのですから、私は理解に苦しんでいます!

幸いにも、Hが入っている日本語は「腹切り」くらいでしょうか。「切腹」というのも文献では使われているそうで、辞書にはのっているのですが、一般のフランス人たちは「腹切り」しか知らないようです。「腹切り」が「アラキリ」になるのは、そう可笑しくもないと思います。「腹切り」というのは、日本ではほとんど使わない言葉だと思うのですが...。


詳しくお調べになりたい方へ

私がここに列挙したものは、辞書から簡単に拾ったり、耳にする言葉をもとにして書いています。また、語句がフランスの文献に現れた年号に関しては辞典によって異なっているものもあったこと、ごく最近に発行された辞書は手元にないために参照していないことをお断りしておきます。

フランスの語源(étymologie)を調べるためには数々の書籍が発行されています。正確なことをお知りになりたい方は、以下の辞書などをご参照くださるようにお願い申し上げます。

フランス語の語源を調べることができる辞書など:



Wiipéedia仏語版では、日本語からフランス語になった単語のカテゴリーを作成中でした。
Mots japonais en français


フランス語から日本語になった単語は、Wiipediaでリストアップ中のようです。
フランス語から日本語への借用

作成: 2005年1月 更新: 2010年10月


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